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何かいいことがありそうな8月を迎えました。 いよいよ8月12日から「先生のための夏休み経済教室」がはじまります。 「この先生のお話が授業づくりにつながる!」という研究者による講演、そして全国の教師による授業実践と充実したプログラムになっています。 会場では、ぜひ近くの参加者と交流を深めてください。全国から「授業をよくしたい」という思いをもった教師が参加します。ネットワークを広げる絶好の機会です。 それではメルマガ8月号のスタートです。 ──────────────────────────────────────── 【今月の内容】 今月は次の五つの内容をお届けします。 ──────────────────────────────────────── 【 1 】「先生のための夏休み経済教室」に行こう! 【 2 】最新活動報告・・・2025年7月の活動報告です 【 3 】定例部会のご案内・情報紹介 【 4 】授業のヒント…教科書から少し離れることについて 【 5 】授業で役立つ本…今月も授業づくりのヒントになる本を2冊紹介します。
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──────────────────────────────────────── 【1】「先生のための夏休み経済教室」に行こう! ──────────────────────────────────────── 今月は「先生のための夏休み経済教室」があります!! (1)大阪会場 大阪取引所4階 OSEホール(大阪証券取引所ビル) 8月12日(火) 高校対象 対面のみ 8月13日(水) 中学対象 対面のみ プログラムはこちら https://econ-edu.net/2025/06/22/8435/
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(2)東京会場 慶應義塾大学 三田キャンパス 北館3階 大会議室 8月19日(火) 高校対象 対面+オンライン ※ 東京会場 高校の対面申し込みは締め切りました。 8月20日(水) 中学対象 対面+オンライン プログラムはこちら https://econ-edu.net/2025/06/22/8438/ ※ 続々とお申し込みありがとうございます。 大阪会場、東京会場(中学対象 対面)も会場が満席に近づいております。 満席になり次第受け付けを終了させていただきます。 ──────────────────────────────────────── 【 2 】最新活動報告・・・2025年7月の活動報告です ──────────────────────────────────────── ■ 大阪(No.94)部会を開催しました 日時:2025年7月13日(日) 15時00分~17時00分 場所: 同志社大学大阪サテライト 内容の概略: 18名参加 (1)大山正博氏(武庫川女子大学)と新友一郎氏(神戸高等学校)から「公共の実践(政治・経済):ゲームで体験した「雰囲気」を国際政治の学習に活かすディブリーフィング」の実践報告がありました。 (2)河原和之氏(立命館大学他)から「日常の世界から科学の世界へ~すべての子どもが意欲的に学ぶ経済の授業~」の報告がありました。 (3)玉木健悟氏(弐下中学校)から「河原先生から経済の授業づくりを「たくさん」学ぶ!」の報告がありました。 (4)奥田修一郎氏(高野山大学)から「米の適正価格ってどのくらい?」の報告がありました。 詳しい内容は https://econ-edu.net/wp-content/uploads/2025/07/Osaka94report.pdf をご覧ください。 ──────────────────────────────────────── 【 2 】定例部会のご案内・情報紹介 ──────────────────────────────────────── ■ 東京(No.146)部会を開催します。 日時:9月13日(土)15時00分~17時00分 会場:慶応義塾大学三田キャンパス+zoom 申し込み方法 お申し込みはこちら https://econ-edu.net/application/event-application/
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■ 大阪(No.95)部会を開催します。 日時:2025年10月12日(日)15時00分~17時00分 会場: 同志社大学大阪サテライト(予定) 申し込み方法 お申し込みはこちら https://econ-edu.net/application/event-application/ よりフォームにてお申し込みください。 ■ 第55回ネタ研 日時 8月24日(日)9:50~17:00 会場 高津ガーデン (大阪上本町下車北東徒歩5分) 参加費 1日2000円 半日1500円 報告者、学生は半額 定員 35名(定員になり次第締め切ります) 詳しい内容及びお申し込みはこちらをご覧ください https://econ-edu.net/2025/05/31/7830/
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──────────────────────────────────────── 【 4 】授業のヒント ──────────────────────────────────────── 教科書から少し離れることについて 執筆者 金子幹夫 1.一度立ち止まろうと思います ここ数ヶ月間、生徒が肌感覚で分かる授業づくりについて考えてきました。 さて、次の一歩をどのように踏み出せばよいのでしょうか? 勢いに任せて「こんな材料はどうでしょうか?」と提案し続けることもできそうですが、一抹の不安がよぎります。 その不安というのは、いつかやがて話題が底をつくという心配です。それだけではありません。例えばGDPとか国際収支といった生徒の生活経験とは遠いところにありそうな授業案を、いつかは考えなくてはいけないとわかっているからです。 そこで今月は「肌感覚で分かる授業づくり」ということそのものについて、少し立ち止まって考えてみたいと思います。
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2.「肌感覚で分かる」をどう捉えるのか? 生徒が「分かる」学習と聞いて、パッと思い浮かぶのは、先月のメルマガで紹介した教育心理学者犬塚美輪先生の『読めば分かるは当たり前? 読解力の認知心理学』(筑摩新書)です(メルマガ198号 2025年7月1日)。 この本によりますと、単語には①日常語彙 ②専門用語 ③学習語彙があるとのことでした。そして「説明文」よりも「物語文」の方が読みやすいことを取り上げていました。 これらを経済学習に当てはめてみますと、登場する用語は②専門用語と③学習語彙、そして教科書記述は「物語文」ではなく「説明文」ということになります。
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3.単純に考えると・・・ そうであるならば、教師は教科書から少し離れたところで、できるだけ日常用語を使った物語を構成すれば、生徒がこちらを向いてくれるのではないかと、ここ数ヶ月考えてきました。これが「肌感覚」で教える一歩ということになります。 ところで、経済学習に関して、どこまで日常用語を使った物語づくりが可能なでしょうか? 何もかも日常用語で表現しようとすると、学問的な正確さを保てなくなってしまいそうで心配です。
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4.「教科書から少し離れたエピソード」の再解釈 そこで再び足元を見つめての問いかけです。「教科書から少し離れたエピソード」というコトバを再解釈してみたいと思います。 ここ数ヵ月間取り上げてきたエピソードは、文字通り教科書から少し離れたところにある、生徒の生活経験を材料にした出来事でした。教師は、生徒の心をこちらに向かせるために、今どういうことに関心があるのか? といった取材を続けるのです。 ところで、この「教科書から少し離れたエピソード」というのは、生徒の生活経験の周辺にしかないものなのでしょうか? 別の角度から見たり、別の次元から捉えたりすることのできるエピソードもあるのではないかと思い書店を訪ねました。
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5.経済を教えてきた人たち 探した本の内容は、教師でない人(できれば経済学者)が経済を教えるという本です。 全国の書店で手に入りやすい書籍を2冊選びました。 1冊目は、経済学者が自分の娘に経済のことを教えるという、ヤニス・バルファキスが執筆した『父が娘に語る経済の話』(ダイヤモンド社2019年)です。バルファキスはイギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、本書執筆時点ではアテネ大学教授です。教わる娘は10代半ばと書いてありました。 2冊目は、南ドイツ新聞の経済部記者ニコラウス・ピーパーによる『親子でまなぶ経済ってなに?』(主婦の友社 2004年)です。こちらは表紙に「小学生でも身につきます」との記載があることから、10歳前後の子どもを対象にしているのかと推測しました。 6.偶然かもしれませんが・・・ この2冊は、教師ではなく保護者が自分の子に経済を教えています。 1人は経済学の研究者で、もう1人は経済を専門にしているジャーナリストです。 読み進めていくと、この2冊にはいくつかの共通点が見つかりました。 第1の共通点は、話の始まりが歴史を扱っているところです。人類が農業をはじめたところから社会は大きく変わるという展開です。 第2の共通点は、その歴史の話を、物語文のように語っているところです。ある日、村の外れに余った毛皮を持っていき岩の上に置きます。2,3日経過すると魚が岩の上に置いてありました。見たこともない魚なので食べることができるかわからないので放置します。すると5日目に大きな壺が置いてあったので持ち帰ったという交換の場面が生き生きと書かれています(実際はもっと躍動感のある文です)。 第3の共通点は、単なる歴史を語るのではなく、私たちの身の回りのものがどのように誕生したのかを教えてくれるのです。文字、お金、軍隊等々です。 第4の共通点は、身の回りにあるモノの歴史だけでなく、概念や思想といったものが、いつどのようにして誕生したのかを物語のように語ってくれるのです。国家や宗教、分業、交易、権力、契約等々です。説明文ではありませんから、面白く読むことができます。 第5の共通点は(第3,4の共通点と被るところもありますが)、教科書で学習する用語の歴史を知ることができるというところです。教科書に記述されている用語が、いつ、どのようにして誕生したのかが書かれているのです。 バルファキスは、商品がどのようにしてこの世に誕生したのか? 利益という考え方がなぜ人間の心に宿るようになったのか? どうして人々が借金をするようになったのか? 文化、芸術、僧侶、兵士が誕生した歴史を易しい言葉で語っています。「あー、そういうことだったの」という生徒の声が聞こえてきそうです。 ちなみにこのバルファキスはギリシア経済危機の時に財務大臣を務めています。そしてこの本を書くときに影響を与えたものとしてジャレド・ダイアモンドの『鉄・病原菌・鉄』、カール・マルクス、古代アテネ人によるギリシア悲劇、ケインズをあげています。
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7.いろいろな方向に踏み出せます 私たちは、ここまでのところをどのように受け止めることができるのでしょうか? 筆者が発信したいメッセージは、足元を見たら、次の一歩を踏み出す道がまだまだありそうだということです。 「経済学者が自分の娘に経済を教える時に歴史的アプローチをしているのだから、私たちも歴史から学習をはじめてみませんか」ということを主張したいのではありません。そういうやり方もあるというひとつのカードを示しただけです。 教師は「教科書から少し離れたエピソード」というものを幅広く捉えることで、教材づくりにおける不安が少し解消するのではないかと思います。 本稿の冒頭であげましたGDPとか国際収支といった生徒の生活経験とは遠いところにありそうな授業案をつくらなければいけないとき、足元を見るとまだ踏み出していない方角があるのではないかということです。 そんな抽象的なことを言われたら、ますます不安になってしまうという声が聞こえてきそうです。そこで少しでもヒントになればと思い、今月の「授業に役立つ本」で井堀利宏先生の『知らなかったでは済まされない 経済の話』(高橋書店)を紹介したわけです。
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8.こんな教え方もあるのだ 今月の「授業に役立つ本」で紹介しました井堀利宏先生の『知らなかったでは済まされない 経済の話』(高橋書店)は、経済学者が経済に関心のない28歳の会社員に経済を教える物語です。教える目線は歴史ではなく大臣(総裁)からのものでした。 生徒は大臣に会ったことはないでしょう。しかし(テレビやネットで)見たことのある生徒はいるはずですし、皆が思い描く大臣像に大きな違いはないと思います。私たちからは遠い存在ですが、実はそんなに遠くなかったという不思議な存在です。 生徒は、どのような話題に反応するのか分かりません。ということは、教師がエピソード探しに好奇心を持つこと、そしてまだ掘り尽くされていない話題がたくさんあるという事実を知ることが次の教材づくりの一歩につながると思います。
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9.夏の経済教室でエピソード探しの話をしてみませんか? 今月は「肌感覚で教える」ことについて少し立ち止まって考えてみるというテーマで考えてみました。この背景にはエピソードの話題が底をつくという心配や、生徒の生活経験とは遠いところにある話題をいつかは授業で扱う必要があるという心配がありました。 少し立ち止まっただけでも、歴史的に捉えるというアプローチや、大臣だったらどのような政策を考えますかというアプローチの存在を知ることができました。 今月は「先生のための夏休み経済教室」があり、多くの教師や研究者が集まります。「あのメルマガを読んでどう思いますか?・・・」といった会話がきっかけでネットワークが広がればうれしいです。今月はここまでです。 ──────────────────────────────────────── 【 5 】授業に役立つ本 ──────────────────────────────────────── 今月紹介する本は,小川さやか『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』光文社新書 2016年と井堀 利宏『知らなかったでは済まされない 経済の話』高橋書店 2025年 です。
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■小川さやか『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』光文社新書 2016年 ① なぜこの本を選んだのか? 2021年の「先生のための夏休み経済教室」で講演をしていただきました経済学者坂井豊貴先生が「読売新聞」(6月15日)で経済の10冊をあげていました。 その中で一番にあげていた本が小川さやか先生の『その日暮らしの人類学』だったのです。なぜ「経済を読む」ために紹介した一番はじめの本が人類学の本なのでしょうか? 読み進めるうちに、経済を教える多くの先生方と共有したいと思い本書を選びました。
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② どのような内容か? 1)小川さやか先生が研究していることは? 小川先生は、立命館大学で、現代アフリカにおける消費文化を研究している文化人類学者です。タンザニアで中古品やコピー商品がどのように流通し消費されているのかを調査しながら人間の行動を分析しています。
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2)どのような内容の本なのか? 2025年春、日本国内のお店からお米が消えました。この時、生徒や読者の皆さんは何を考えたのでしょうか? 不安だから少し多めに買っておこうか・・・と考えた方もいるのではないでしょうか。 本書に登場する人たちは、そのようなことは考えません。「未来のために蓄えよう」という発想を持たない人々が主人公なのです。小川先生は、過去-現在-未来といった「時間に規定されない暮らし」をしている人々を紹介しながら考察を進めていきます。どうして「時間に規定されない暮らし」に注目する必要があるのでしょうか? 3)なぜ「時間に規定されない暮らし」を考察する必要があるのか? 私たちが感じる「時間の流れ」は、人間が便宜的に生み出したものだといいます。その特定された社会のひとつとして資本主義経済システムがあると捉えるのです。 資本主義経済に生きる人びとは、時間の概念に合わせて生きることになります。この社会は「未来のためにいま頑張る義務がある」と考える人々で構成されています。頑張って成果を出した人は、次の目標に向かって今を犠牲にし続けます。一方で、成果を出せなかった人は社会不適合でダメな生き方をしていると言われてしまうのです。 ところで、このシステムが支配する社会は、ここ数年、震災、非正規雇用の問題、若年不安定労働層の拡大といった大きな問題を抱えるようになりました。この問題は「未来のためにいま頑張る義務がある」と考えている人々に大きな不安を与えます。 この不安を抱える人々にどのような手を差し伸べることができるのでしょうか? 手がかりを探すために、世界各地にある「時間に規定されない暮らし」をしている人に注目したのです。これが「時間に規定されない暮らし」を考察する理由です。 それでは「時間に規定されない暮らし」は実際にどのような暮らしなのでしょうか?
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4)先のことを考えない人々 時間に規定されない暮らしをしている人々の例として1970年代のタンザニア焼畑農耕民をあげています。そこに住む人々は、生きるために必要な分だけ食糧を生産する一方で、客人をもてなす時には自分たちの食べる分まで気前よく盛大に振る舞います。 なぜ自分たちが食べる分まで客人に提供してしまうのでしょうか? その理由を嫉妬、うらみ、呪いという言葉を用いて説明するところは、すーっと読み手の心に入ってきます。タンザニア焼畑農耕民の日常生活は「何とかなる」という信念が基盤となっていて未来のことなど心配しません。そして、いざという時が来ると呪術や超自然的現象との関係を駆使してなんとか切り抜けていくのです。「時間に規定されない」というよりは「時間をあやつる」ように暮らしているようです。 ところで、この「時間に規定されない暮らし」をみて資本主義社会に生きる人々は何を学ぶことができるのでしょうか?
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5)二つの社会の接点を探す? 本書にはタンザニアの農耕民、アマゾンの狩猟採集民をはじめいろいろな人々の暮らしが紹介されています。この暮らしを見て「私たちとは考え方が異なる人がいるね」として解釈を終えてしまったら、お話は終わってしまいます。 この暮らし(物事の見方や考え方)が資本主義社会に生きる人々の抱える不安解消とどのように結びつくのかを結びつけることこそ中心課題として設定するべきものです。 それではどのようにして私たちの生活と、本書に登場する人々の生活を結びつけることができるのでしょうか?
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6)接点となりそうなものは? 「その日その日を生きる人々」がもつ独自の経済システムは、一見すると現行の資本主義経済とは相いれない対極にあると思ってしまいます。 ところが本書は「上からのグローバリズム」、「下からのグローバリズム」という概念を用いることで、この二つの世界を結びつけようとするのです。 上からのグローバリズムというのは、大企業や多国籍企業が主に導くグローバル化のことです。一方、下からのグローバル化は「その日その日を生きる」路上商人や零細商人が主導するグローバル化です。この二つのグローバル化をどのように結びつけるのでしょうか?
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7)同じ資本主義社会の考え方? 本書に登場する人々は、上からのグローバリズム社会で生きる人にとって馴染みのない行動をする人々です。 せっかく儲かる商売を見つけたのに、その手の内を仲間に全て教えてしまう東アフリカの商売人たち。中国で生産されるコピー商品や偽物の商品、そしてそれを偽物と知った上で購入するアフリカの消費者たちです。 小川先生は、ここに登場する人たちの行動を見ていくと、下からのグローバル化は資本主義の論理で動いていると捉えるのです。しかも徹底して自由主義化した経済システムを形成しており、人間主義的な新自由主義の論理で動いているというのです。 「時間に規定されない暮らし」をしている人々は、資本主義社会に生きる人にとって全く別のシステムの中で生活しているわけではないところに二つの世界を結びつける接点を見出そうとするのです。
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8)教室で意識することのない社会の存在 地球上の全ての社会が、時間は過去-現在-未来と流れているのではないということ、そして別の時間軸をもった社会がまったくの別世界ではないということ。この二つを感じることで、世の中の仕組みを捉える眼が変わってくるのではないかと解釈しました。 資本主義経済のもとで生きている人々が抱える様々な課題、そして不安をどう捉えることができるのかを冒頭で示しました。「その日その日を生きる」人々の暮らしを見つめることで、社会が抱えている課題を捉える眼が大きく変わってくるのではないかと思います。 皆様の読後の感想をうかがってみたいです。
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9)本書の全体像 以上が,本書の内容です。最後に目次を示して全体像を眺めることにします。 プロローグ Living for Todayの人類学に向けて 第一章 究極のLiving for Todayを探して 第二章 「仕事は仕事」の都市世界――インフォーマル経済のダイナミズム 第三章 「試しにやってみる」が切り拓く経済のダイナミズム 第四章 下からのグローバル化ともう一つの資本主義経済 第五章 コピー商品/偽物商品の生産と消費にみるLiving for Today 第六章 <借り>を回すしくみと海賊的システム エピローグ Living for Todayと人類社会の新たな可能性
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③ どこが役に立つのか? 過去から現在、未来に向けて流れる直線的な時間は、資本主義経済を考えるために、仮に定めたものであるという発想は、教科書記述にはありません。 教師が、私たちと異なる時間軸で行動する人の存在を認識する意義は大きいと思います。地球上には、様々な世界観があることを発見できる1冊だと思います。
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④ 感 想 教科書記述の前提を眺めることができたというのが一番はじめに浮かんだことです。 紹介者は、「教科書には全世界のことが隅々まで書かれている」と思いこんでしまっているのではないかとハッとさせられました。 生徒が持っている「世界を見る眼」を育てるためには、教師が教科書記述で省略されたところをどこまで把握しているのかが大切なのだと感じました。
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■井堀 利宏『知らなかったでは済まされない 経済の話』高橋書店 2025年 ① なぜこの本を選んだのか? 経済学者が一般の人を対象に経済を教えようとする時に、何を教えているのでしょうか?それをどのように教えているのでしょうか? このことを知りたくて講読しました。 本書では、教える側は相手の情報をほとんど持っていません。ということは、その時点で一番手堅い順番で教えるはずです。それを1冊の本にまとめるわけですから、これまでにない経済の教え方があるというメッセージが発信されていると考えて選びました。
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② どのような内容か? 1)井堀先生について 井堀利宏先生は東京大学名誉教授です。専門は財政学、公共経済学、経済政策です。著書には『大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)、『政治と経済の関係が3時間でわかる 教養としての政治経済学』(総合法令出版)、『超速・経済学の授業』(あさ出版)があります。
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2)どのような物語なのか? 本書の舞台は新宿駅東口の喫茶店です。 ここで井堀先生が、出版社に勤めている28歳の会社員と偶然出会い、日本経済を教えることになるという物語です。偶然の出会いですから相手のことをよく知りません。会社員は経済にあまり関心がないようです。さて、何を、どのような順で教えるのでしょうか。
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3)なぜ本書を書いたのかという推測 なぜ井堀先生が経済にあまり関心を持たない若者相手に経済を教える本を書かれたのでしょうか? それは、これまでに世に出された経済の教え方とは異なるアプローチを示したかったからではないかと推測しました。 次に、場面設定です。教える側は相手の情報をほとんど持っていません。喫茶店で偶然出会ったわけですから仕方がありません。ということは、相手がどのような状況にあっても耐えられるような内容で教えるはずです。 井堀先生は、大人相手ならば、このアプローチで経済のことを教えられるはずだというメッセージを発信するために本書を書いたのではないかと推測しました。 そしてそのアプローチの方法は「もしもあなたが○○大臣(総裁)だったら?」という問いかけです。この問いは本書の各章で共通したものになっています。
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4)登場する大臣(総裁)は? 一冊を通して登場する大臣(総裁)は、財務大臣、経済産業大臣、厚生労働大臣、日銀総裁です。この4人の視点を軸に日本経済を教えることになります。 そこで読者の皆様に質問です。もし目の前の生徒に、この4人の大臣(総裁)の視点で経済を教えるとしたら、どの順番で教えますか? 考えてから次の行をお読みください。
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5)会社員相手に選んだ最初のリーダーは? 井堀先生がはじめに選んだのは日銀総裁でした。金利の操作は、薬の量を調節するような難しさがあるという独特の表現をまじえながら物価のお話をしてくれます。 本書に書いてあることをそのまま中学生や高校生に説明するのは難しそうです。しかし、「経済ってこういうふうに教えることができるのだ」という経済学者の視点はものすごく役に立ちます。 例えば、「もしあなたが日銀総裁だとしたら『経済の安定』と『人々の生活』のどちらを優先して金利を決めますか?」という問いは、生徒と共に金融政策を考えるきっかけを教えてくれます。 さて、それでは2番目に選んだリーダーは誰でしょう? 6)2番目のリーダーは? 次に登場するのは財務大臣です。 ここでの問いかけは「もしあなたが財務大臣だったら『経済の成長』と『安心できる暮らし』のどちらを優先しますか?」というものです。紹介者が教えていた教室では圧倒的に「安心できる暮らし!」という答えが返ってきそうです。 この問いをきっかけに財政政策の目的を金融政策の目的と比較して説明してくれます。 話の軸は「税金は何のためにあるのか?」というものでした。
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7)3番目のリーダーは 次に登場するのは経済産業大臣です。ここで学ぶことは「政策選択」です。 ここまでは、政府と家計の姿を見ながら学んできましたが、ここからは企業の存在が大きく取り上げられます。そして取り上げる時間軸も中長期的な視点になっていきます。 考えるテーマは産業支援です。どの産業を、どういう理由で支援することが有効なのか?といった問題を「どこに種を植えると収穫が多いのか?」と農業に例えて説明します。 さらに、古いビジネスモデルに固執するのではなく、新しい分野にどのように移行させるのかという発想を求めています。本文にはでてきませんが、ゾンビ企業の問題を指摘しているのだと思います。 そして、経済産業大臣は、新しい分野が成長するにあたって、ある程度の痛みを覚悟しなければならないと説いています。生産性を上げて成長させ、その後に格差是正の方法について決断するわけです。この適切な決断が日本の成長戦略につながると指摘しています。 この説明から、次に登場するのが厚生労働大臣ではないかと想像できます。
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8)最後は厚生労働大臣です ここでの問いかけは、給料明細書を見ながら「もしも厚生労働大臣だったら『負担』と『受益』のバランスをどう調整するのか?」というものです。 この負担と受益に関して、日本の公的年金が、いつどのようにして始まったのかという歴史を説明しているところは、公民科の教科書記述より詳しくわかりやすいものになっています。 そして、この年金制度の部分では井堀先生が「望ましい年金制度についての提案」ということで政策選択に向けての選択肢を示しています。この提案部分は、政策選択を教える教師が教材研究をするときに役立つ記述になると思います。
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9)「わからない→文句を言う」からの脱却 喫茶店での対話は続きます。経済学の研究者は、経済をこのように教えるのかということを学ぶことができました。 井堀先生は会社員に向けて「君はもう、“文句を言う側”から“問いを立てる側”になっている」と言ってくれます。会社員が日常生活の中で持った経済に関する疑問を、大臣の視点から考えるという教え方について、中高校の教師はどう受け止めたらよいのでしょうか。 多くの皆様から感想やコメントをいただきたいと思います。最後に本書の全体像を眺めることにします。
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10)本書の全体像 本書の目次は次のとおりです。 プロローグ 新宿の片隅で 第1章 物価の話 第2章 景気の話 第3章 企業と経済の話 第4章 社会保障の話 エピローグ こちら新宿区新宿駅東口前マルカド
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③ どこが役に立つのか? 経済の専門家が経済を教える過程を見ることができます。どうして日銀総裁を一番はじめに取り上げたのか? なぜ問いかけが大臣の目線からなのか? を考えながら読み進めることで、生徒にとって遠い存在である経済学習を身近なところに持ってくるための手立てがつかめるのではないかと思います。
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④ 感 想 最初は経済のことにあまり関心のない会社員でしたが、先生との対話を続けているうちに質問がだんだん難しいものになっていくという変化を読み取ることができました。 後半になりますと、まるでテレビの経済番組のように質問がだんだんと専門的になっていくのです。いつの間にか、28歳の会社員が成長していく過程を見ながら読み進めることができました。 (金子幹夫) ──────────────────────────────────────── 【 6 】編集後記「~自己観照~」 ──────────────────────────────────────── 7月のある日、私は都内で早朝から仕事をしていました。10時頃に無事終了したので、遅い朝食をとるために、新聞を買って喫茶店に入ろうとしました。ところが、コーヒーを飲むまでにけっこう時間がかかってしまったのです。 喫茶店はたくさんあります。ところが新聞を売っている店がないのです。1日の乗降客が8万人を超える駅が近かったので、すぐに手に入るだろうと思っていたのですが、駅に売店はなくコンビニにも売っていないという有様です。 15分ほど歩き回り、ようやく購入することができました。新聞とコーヒーと喫茶店という風景は過去のものになってしまったのでしょうか。ホットコーヒーを楽しむつもりだったのですが、歩いたせいでアイスコーヒーを飲みながらそんなことを考えました。 (金子幹夫) ────────────────────────────────────────
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