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学生向けQ&A No. 1



いま、日本では政府の財政赤字が問題になっています。その点について(1)政府の赤字が大きすぎると、 国が破産するのだろうか? (2)もし政府の赤字が大きすぎて困るのであれば、政府は借金をする代わりに、新たに紙幣を発行すればよいのではないか?と思うのですが、 どのように考えればよいのでしょうか。(甲南女子高校 2年生)('06/10/06)


財政赤字に関する考え方

いずれもすばらしい質問です。
政府の赤字が増えすぎると国家が破産するのではないか、という点については2つの考え方があります。

第1に、とくに国の場合には、徴税権をもっているため、いくら借金しても、それを国民に返却するときに、返却に必要な額だけ増税すればよい。 だから、国の借金はいくらあっても問題はない、という考え方です。第2に、これに対して、国民が負担できる税の大きさには限度があるという常識的な考え方です。 このように考えれば、赤字は無制限に増やすわけにはいきません。とくに、政府の赤字が増えると、将来、その借金を国民に返済する時点で政府は増税するはずです。 なぜなら、政府は働いたりモノを生産したりして収入を得ることはできないため、借金返却に必要な資金を集めるには増税する以外に方法がないからです。

このように考えれば、政府の赤字が増えれば、国民は「将来、増税があるはずだ。だから、今から、将来の増税に備えて貯蓄しておかねばならない」 と考えるはずです。言い換えれば、現在の所得のなかから消費の一部を削って、貯蓄に回す。だから、現在の状況を考えれば、国民が消費する額を減らすので、モノの売れ行 きが落ちる。すると企業の売上げが落ち、そのために企業は生産を減らす。生産を減らせば、雇い入れる労働の量も減るので、失業する人の数も増える、といった困った状況に なりかねないのです。
このように、政府の赤字が増えすぎると、経済は不況に陥る可能性もあるのです。

このように「赤字は抑えるべきだ」と考えた上で、今度は「それでは、赤字が出ないように、日本銀行がおカネを刷って、それで赤字を埋めれば よいのではないか」という質問がでてきました。

日本銀行が毎年、政府赤字分だけ新たにおカネ(1万円札など)を刷れば、確かに政府は国民から借金をする必要はありません。ですから、 政府が破産する心配も、景気が悪くなることもない、すばらしい解決策のように見えます。
しかし、モノの生産には限りがありますが、おカネ(紙幣)を刷り続ければ、モノの値段は限りなく上がっていきます。皆さんが、 おカネが余分にあるとモノを買いに行くように、国民がおカネを持ちすぎるとモノを買いに行く量(=需要と言います)が増え、その結果、モノの値段が上がってしまいます。 そして、毎年、日本銀行がおカネを印刷して、政府の赤字を埋めていたのでは、モノの値段は際限なく上がってしまうのです。やがて菓子パン1個25万円、ボールペン1本 50万円、パソコン1台1億円などといった、大変なインフレになってしまいます。そうなると、今度はおカネ(貨幣)の値打ちが極端に下り、 何かを買うためには何億、何百億という円が必要になり、やがておカネが紙切れのようになってしまいます。
このようになれば、貨幣経済が機能しなくなり、経済は混乱し、ちょっとした不況どころではない状況に陥る可能性もあるのです。 (それをハイパーインフレとか、超インフレと言います。)

以上のように考えれば、政府の赤字があるからと言って、その不足額を新たにおカネを発行して埋めるという方法にも問題があるのです。
ですから、結局は
(1) 政府支出を抑える(無駄を省く、それでも不足する場合には、政府が国民に提供しているサービスを減らすことも考えねばなりません)。 ここでは、高齢化が進む中で、高齢者に対する社会保障サービスをどのように考えるか、という重い問題が含まれています。
(2) 増税する(いま、消費税の引き上げが議論されています)
ことを考えざるをえないのです。

  ただし、景気がよくなれば、それだけ国民や企業が支払う税も増えるので、税収入が自然に増えていきます。この面にどれだけ期待できるかによって、増税をど れだけに抑え、政府サービスのカットをどこまで避けることができるかが決まってくるはずです。以上が、政府の財政赤字と増税をどう考えるか、現時点での議 論の要約です。

[篠原総一(同志社大学経済学部教授)]



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