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一般向けQ&A No. 3
高校3年生から質問なのですが、どう答えたらよいか教えてください。「国際的なコングロマリットとコンツェルンとはどこがちがうのですか。」('06/12/09 京都府在住) |
コンツェルンとは通常、法律上は独立しているいくつかの企業が資本を通じて結びついて実質的にひとつの企業になっているという企業結合にかかわる形態のこと をいいます。ただし、複数の企業が資本を通じて結びついているだけでは、コンツェルンとは呼ばれません。コンツェルンという場合、通常は、持株会社が株式 の取得を通じて参加企業を結合・支配するとともに、強い市場支配力を持った巨大な企業集団のことを指します。 このようにコンツェルンという言葉自体、企業と企業との間の結合関係を示すものです。しかし、コンツェルンが多くみられた第2次世界大戦以前のドイツや スウェーデンなどにおいては、そういった企業集団により市場が支配され、競争が阻害される事例が多数観察されたことから、独占の一形態として議論されるのが一般的と なっています。実際、企業集中あるいは独占の形態という観点からみると、コンツェルンは、個別企業の独立性を認めたうえで価格支配を目的として締結されるカルテルや、 株式の信託という手段を利用して特定の産業部門における競争の排除や市場での価格支配を狙って形成される企業合同であるトラストよりも強固な市場支配力を有し ていることから、最も発展した独占の形態であるとされています。 第2次世界大戦前の日本において活動していた三井、三菱、住友などの財閥 もコンツェルンの一種です。そのため、日本ではコンツェルンは通常、財閥と訳されています。もっとも、日本だけでなく、ドイツのコンツェルンも戦後、経済 民主化のため、解体されることになりました。アメリカにおいても19世紀末から20世紀初めにかけて企業合同が進展し、一部少数の企業による市場支配が進 みました。しかし、企業合同に際しては、ドイツや日本とは異なり、トラストという形態が選択され、コンツェルンは形成されませんでした。そのため、市場支 配に伴う弊害の発生防止を狙いとする独占禁止政策は、アメリカにおいては反トラスト政策と呼ばれています。そういった歴史的な事情もあって、コンツェルン に相当する英語はなく、日本の系列(“keiretsu”)と同様に、ドイツ語で ”Konzern” と表記されるのが一般的となっています。 もっ とも、英語においてコンツェルンに相当する言葉は何かと問われれば、”conglomerate” (コングロマリット)が挙げられます。その意味では、コンツェルンとコングロマリットとは、ほぼ同義ということができます。しかし、現代の世界において企 業結合や企業合同を論じる際に、コンツェルンという言葉が用いられることはほとんどありません。むしろ、コングロマリットという言葉が利用されるのが一般 的です。例えば、金融の分野では近年、持株会社の傘下に銀行、証券会社や保険会社を統合して顧客に多様な金融サービスをきめ細かく提供するという動きがみ られますが、そういった企業組織のあり方は現在、金融コングロマリットと呼ばれています。 その背景としては、各国政府とも厳しい独占禁止政策を展開しているため、今では市場支配や価格の吊り上げを狙いとする企業の買収・合併が認められていないことや、20世紀前半のドイツなどで隆盛したコ ンツェルン自体、世の中から姿を消したといった事情が挙げられます。加えて、大企業自身も経営の効率化、事業の多角化や新分野への進出などを狙いとして現在、買収・合併には積極姿勢で臨んでいますが、かつてのような市場支配といった意図はないようです。こうした点を強調することもあって現在、コングロマ リットについては、持株会社などを中核として複数の異なる事業を営む企業から構成される企業グループと規定されるのが一般的となっており、独占についての 言及はほとんどありません。ちなみに、コングロマリットは通常、「複合企業体」と訳されています。 以上要約すると、コンツェルン、コング ロマリットとも企業合同の形態としては、ほぼ同じことを意味しています。しかし、前者は通常、第2次世界大戦以前のドイツ等で広く観察された大企業による市 場支配を狙いとして形成された独占の一形態を指し示すのに対し、後者は経営の効率化、事業の多角化要請等に基づいて形成された複合企業体のことを意味する という点で異なるといえます。 [鹿野嘉昭 (同志社大学経済学部教授)] |